湿度スイング吸着法によるCO2回収
近年、排気ガスや大気からCO2を回収し、貯留・利用する試みがなされています。その中で鍵となるのがCO2を回収する技術です。CO2を回収する技術として物理吸着法や化学吸着法など様々な方法がありますが、消費エネルギーの低減が大きな課題です。そこで我々は吸着剤を乾燥させればCO2を吸着し、湿らせるとCO2が脱離する湿度スイング吸着法に着目し研究を行っています。湿度スイング吸着法では水を供給するだけでCO2を吸着剤から脱離することができるため、既存の熱を使うCO2回収システムと比べ消費エネルギーを大幅低減できる可能性を秘めています。
(1)吸着剤の開発
湿度スイング吸着法のCO2吸着剤には高吸着量、高吸着速度が求められます。そこで我々は多孔質状の吸着剤を開発するとともに吸着剤となる高分子構造を最適化することで、高い吸着性能を有するCO2吸着剤を開発しています。
(2)物質輸送メカニズムの解明
高性能な吸着剤を開発するためには吸着剤の中で生じるCO2などの輸送メカニズムを解明する必要があります。そこで、我々は分子動力学法を使い、高分子中の物質輸送メカニズムの解明および吸着剤構造の提案に取り組んでいます。また、高分子中のCO2を可視化する技術の開発にも取り組んでいます。
(3)エネルギーマネージメント
消費エネルギーの低減にはCO2回収システムのエネルギーマネージメントが不可欠です。そこで我々は約 1.0 t/yearのCO2を大気から回収する装置を作製し、そのデータをもとにCO2回収システムの消費エネルギーを最小にする最適構成および運転モードの確立に取り組んでいます。
CO2電解による有機物合成
湿度スイング吸着法で回収したCO2を様々な有機物合成に利用できるCOに変換する電解技術を研究しています。特に固体高分子形および固体酸化物形を対象に、湿度スイング吸着法で回収されたCO2ガスに含まれる不純物の影響の解明に取り組んでいます。また耐久性が向上するセル構造およびシステム構築にも取り組んでいます。この他、CO2電解時に発生する酸素を有効利用できるセルの開発も行っています。
合成燃料に適した副室ジェット燃焼
CO2から合成した合成燃料を高効率に利用する燃焼技術である副室ジェット燃焼方を研究しています。副室ジェット燃焼では副室の燃料に点火し燃焼させることで火炎を主室へ噴射します。これにより、燃焼期間を短縮できレスプロエンジンの高効率化が図れます。この副室ジェット燃焼では副室と主室をつなぐオリフィスの形状が燃焼の安定性に大きく寄与します。そこで、可視化実験および化学反応まで含んだ数値シミュレーションにより合成燃料を用いた時の副室ジェット燃焼のメカニズムを解明するとともにオリフィス形状の最適化に取り組んでいます。また、熱効率を向上できる合成燃料の提案にも取り組んでいます。
固体高分子形燃料電池
脱炭酸技術として水素を高効率に利用できる固体高分子形燃料電池を対象に電池内の水および酸素輸送に関する研究を行っています。固体高分子形燃料電池は水素と酸素で発電を行い水が生成します。生成した水が滞留すると酸素の拡散を阻害するため、適切な排出が必要です。そこで最適な水および酸素輸送を実現する電池構造の構築に取り組んでいます。
(1)格子ボルツマン法による二相流シミュレーション
固体高分子形燃料電池は微細な多孔質を含むため二相流シミュレーションの計算負荷が非常に重いことが課題でした。そこで、並列計算が容易な格子ボルツマン法を対象に大きなタイムステップでも安定的に解ける解析手法を考案するとともにマルチブロック法など部分的に空間分解能を下げることで計算負荷の低減を行ってきました。現在では酸素輸送の他水の相変化を考慮したモデルへ拡張すべく、モデル開発および計算負荷の低減に取り組んでいます。
(2)ガス拡散層/微細多孔質
固体高分子形燃料電池の酸素輸送を促進させるためにはガス拡散層および微細多孔質の厚みを薄くすることが有効です。細孔径を制御した厚さ40µm以下のガス拡散層/微細多孔質の開発を行っています。また、赤外線を使い数µmのガス拡散層の細孔を可視化する技術の開発も行っています。